突然ではありますが、「中小企業退職金制度」についてご存知でしょうか?
日本には様々な企業が存在しますが、割合でいうとその内の大企業は0.3%、中小企業は99.7%にも及びます。すなわちほとんどの企業が中小企業ということになります。
退職金制度がある大手企業と比較して、中小企業にはほとんど退職金制度がありません。
そこで今回は、そんな中小企業のための退職制度である、中小企業退職金制度についてまとめさせていただきました。これから退職金制度の導入を検討されている中小企業の方は、ぜひ最後までお読みください。
目次
1、中小企業退職金共済(中退共)はどんな制度なの?
中小企業退職金共済とは、中小企業のための国の退職金制度です。
一般的には退職金を設定しているのは大手企業に多く、ベンチャー企業などの中小企業に勤めている方は退職金をもらえない会社がほとんどです。
そこで国は、中小企業でも従業員の福利厚生、雇用の安定、企業の振興などを目的に、昭和34年に「中小企業退職金共済法」を設けました。
退職金を作るためには毎月積立をしていく仕組みになっていますが、そのうちの一部は国から助成してくれるなどのメリットがあります。
2、国からの助成あり?中退共制度に加入するメリットは?
中退共制度の最も大きなメリットとしては、中退共制度に加入する事業主に対して、国から掛金の一部が助成されます。新規加入、もしくは途中で掛金を増額した場合も助成対象となります。
また、中退共制度を利用することによっての節税効果もあります。
(1)国から掛金の一部を助成してくれる
まず中退共制度に加入する事業主に、掛金月額の1/2(従業員ごと上限5,000円)を国が助成します。
なお、助成期間は新規で加入後4か月目から1年間までとなっています。
短時間労働者の特別掛金月額(2,000円、3,000円、4,000円)には、「掛金月額の1/2の額+それぞれ300円、400円、500円」が上乗せして助成されます。
ただし、下記の場合には助成の対象外となることに注意しましょう。
・同居の親族のみを雇用する事業主
・社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している事業主
・適格退職年金制度から移行してきた事業主
・解散存続厚生年金基金から資産移換の申出を希望する事業主
・特退共事業廃止団体から資産引渡の申出を行う事業主
なお、途中で掛金を増額した場合の助成は、現在の掛金額が18,000円以下である必要があり、国からの助成金額は助成した差額の1/3の1年間となります。
例えば、掛け金を18,000円から30,000円になった場合は、国からの助成金額は「12,000円☓1/3☓12ヶ月=48,000円」となります。
(2)節税効果がある
中退共制度に加入するもう一つのメリットは節税効果があることです。
では、中退共制度に加入すると、どのくらいの節税効果があるのでしょうか。
たとえば、従業員1人あたりの月々の掛金が30,000円だった場合、従業員数100人の企業であれば、年間で(30,000円×12か月)×100人=3,600万円を経費として計上することができます。
そしてここで法人税を30%だとすると、本来3600万円に対して課せられるべき税金額は「3,600万×30%=1,080万円」の節税効果が望める計算になります。
3、中小企業退職金共済に加入するには?
中小企業退職金共済への加入申し込みは、取引のある金融機関をはじめ、商工会議所などの委託事業主団体を通じて行います。申込書に必要な事項を記入して窓口へ提出し、受理されると「共済手帳」が交付され、以後、口座振替にて掛金を納付します。
申込書の記入例を添付しますので、記入する際に参考にしてみてください。
なお、中小企業退職金共済への加入には業種、常用従業員数(※)、または資本金及び出資金の条件がありますので、自分の会社は該当しているかどうかは事前に確認するようにしましょう。
※常用従業員数とは、1週間の所定労働時間が正社員とおおむね同等であり、雇用期間が2か月を超える方(雇用期間の定めがない方を含む)をいいます。
(1)業種ごとの条件
まずは業種ごとの条件を見てみましょう。
業種 | 常用従業員数 | 資本金・出資金 |
一般業種(製造業・建設業等) | 300人以下 | 3億円以下 |
卸売業 | 100人以下 | 1億円以下 |
サービス業 | 100人以下 | 5千万円以下 |
小売業 | 50人以下 | 5千万円以下 |
(2)その他の条件
その他、業種に関係なく下記6つの共通条件があります。
- ①原則として従業員は「全員加入」となる(ただし、定年などで短期間内に退職することが明らかな従業員や、休職中の従業員、期間を定めて雇われている従業員などは対象外)
- ②個人企業の場合、事業主は加入することができない
- ③法人企業の場合、役員は原則として加入することができない
- ④中小企業退職金共済法に基づく「特定業種(建設業、清酒製造業、林業)退職金共済制度」との同一従業員の重複加入はできない
- ⑤社会福祉施設職員等退職手当共済制度に加入している従業員は、中退共制度と重複して加入できない
- ⑥小規模企業共済制度に加入している方は中退共制度と重複して加入することができない
4、いくらの掛け金になる?雇用形態によって異なる
中小企業退職金共済の掛金月額は、5,000円〜30,000円の間で下記の種類から従業員ごとの選択が可能となります。
5,000円、6,000円、7,000円、8,000円、9,000円、10,000円、12,000円、14,000円、16,000円、18,000円、20,000円、22,000円、24,000円、26,000円、28,000円、30,000円
また「短時間労働者(※)」の方には、上記のほかに特例の掛金月額も選択が可能となります。その金額は2,000円、3,000円、4,000円となっています。
※短時間労働者とは、1週間の所定労働時間が同じ企業に雇用される通常の従業員よりも短く、かつ、30時間未満である従業員をいいます。
5、転職しても大丈夫!掛け金を通算することができる
中退共に加入している企業を退職し、退職後3年以内に退職金を請求しないで、新しい企業で被共済者となり通算の申し出を行えば、前企業での掛金納付月数を引き継ぐことができます。
会社都合などで転職した場合は、掛金納付月数が12か月未満であっても通算できます。この場合、その退職の事由を証明する厚生労働大臣の認定が必要になります。 また、「同一企業内における通算(※)」についても申出ができます。
※同一企業内における通算とは、従業員が復職した場合や一般正社員として加入していた被共済者が短時間労働者となり、特例掛金月額に減額する場合です。
6、実際にいくらの退職金がもらえる?退職金のシミュレーション
最後に、中小企業退職金共済に退職金を積立した場合のシミュレーションをしてみましょう。
実際に新規で加入した際に、いくらの掛金になるかを計算してみましょう。
- 掛金額:10,000円/月
- 期間:3年2ヶ月
10,000円☓3年2ヶ月=380,000円(うち国からの助成金は「5,000円☓12ヶ月=60,000円」)
独立行政法人勤労者退職金共済事業本部のホームページにシミュレーションツールがありますので、ご自身で計算したい場合はぜひ活用してみてください。
なお、試算額は今後の金利動向等により変動する場合がありますのでご注意ください。
また、実際にいくらの退職金をもらえるかの一覧表も独立行政法人勤労者退職金共済事業本部に基本退職金額表として掲載してありますので、事前に金額を抑えておきたい方はこちらから確認してみてください。
退職金を受け取る際にも、節税のメリットがあります。退職金を受け取った従業員側の税金についても考えてみましょう。
退職金は通常、「退職所得」としての税金がかかりますが、退職金の受取時に「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで退職所得控除が受けられます。記入例はこちらを参照にしてみてください。なお、控除額は勤続年数によって異なりますので、実際に計算してみましょう。
(1)勤続年数(納付年数)20年未満の場合
「控除額=40万円×勤続年数」
なお、80万円に満たない場合、控除額は80万円となります。
(2)勤続年数(納付年数)20年以上の場合
「控除額=800万円+70万円×(勤続年数-20年)」
つまり、受け取った退職金額が控除額よりも少ない場合には、税金がかからないということになります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。複数のメリットがある中退共制度ですが、裏を返せば一度加入すると、途中での解約や減額は難しく、毎月の固定費も大幅に増額します。
また、2年以上勤務してはじめて掛金相当額の退職金支給となりますので、従業員の離職率の高い会社にとってはあまり適していないかもしれません。
中退共への加入を考えておられる方は、そのリスクとリターンを踏まえた上で、慎重な判断が必要になるでしょう。