「中小企業経営強化税制」という言葉を聞いたことがある経営者の方は多いのではないでしょうか。
中小企業庁が発表したデータによると、日本企業の大部分を中小企業が占めており、その割合は9割を大幅に超えております。いわば日本経済を支えているのは中小企業といっても過言ではないでしょう。
そのため国は中小企業が優遇されるような税制を実施しており、そのうちの1つが「中小企業経営強化税制」です。
これから事業拡大のため、新規設備購入を考えている中小企業の経営者の方はぜひ、中小企業経営強化税制を活用していただき、事業拡大に繋げていただければと思います。
今回は中小企業経営強化税制について書いていきますので、ぜひ最後までお付き合いください。
1、中小企業経営強化税制とは?
中小企業経営強化税制とは、中小企業の経営力向上ができるよう、国が支援するために制定された法律のことです。
青色申告の承認を受けている中小企業者等が、令和3年(2021年)3月31日までの間に、特定経営力向上設備等を取得又は製作もしくは建設して、国内にあるその法人の指定事業の用に供した場合に、その指定事業の用に供した日を含む事業年度において、優遇措置を受けることができるようになります。
なお、国や地方公共団体から援助を受けている場合でも適用可能な制度です。
2、中小企業経営強化税制のメリットとは?
本制度のメリットは以下のいずれかの優遇措置を受けることができます。
- 当該設備の取得価額を取得した日の属する期に即時に償却すること。(即時償却)
- 取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の法人は7%)を法人税額から控除すること。(税額控除)
以下の例を用いて、税控除(中小企業経営強化税制)を受けない場合と即時償却または税額控除を適用した場合の法人税額の違いをシミュレーションしてみます。
【例】
- 300万円の設備を導入(耐用年数は3年)
- 年間売上:1,000万円
- 資本金:2,000万円
※諸経費や他の税制などは考慮しないものとする。
(1)税制を利用しなかった場合
- 減価償却費:300万円 ÷ 3年 = 100万円
- 課税対象額:1,000万円 – 100万円 = 900万円
- 法人税額:900万円 × 23.2% = 208.8万円
(2)即時償却を選択した場合
- 課税対象額:1,000万円 – 300万円 = 700万円
- 法人税額:700万円 × 15% = 105万円
取得価額を即時償却することで所得が抑えられ、取得年度の法人税額をかなり軽減することができます。特に法人税率が変わる金額の際はぜひ節税に使用したい制度です。
ただし、次年度以降は償却分がないため、次年度に売上が上がった場合は、トータルでの納税額は変わらない、もしくは多くなることもあります。特に売上が上がって節税したい年度に活用するといいでしょう。
(3)税額控除を選択した場合(※税額控除は取得価額の10%とする)
税額控除を選択した場合は下記2つのうち金額が少ない方が該当されます。
①税額控除は取得価額の10%とする場合
控除額:300万円 × 10% = 30万円
②調整前の法人税額☓20%
中小企業経営強化税制を利用した場合の当期法人税額は20%と決めているため、控除できる限度額は「208.8万円 × 20% = 41.76万円」になります。
③法人税額
①と②を比較して、①の方は金額が少ないため、①の金額が適用され控除後の法人税額は
208.8万円 – 30万円 = 178.8万円
なお、①は②より金額が大きい場合は、翌年度に繰り越して税額から控除することができますが、今回のケースは②の金額が大きいため、繰越控除はできません。
3、中小企業経営強化税制を受ける要件は?
中小企業経営強化税制を受ける要件は、青色申告書を提出する
- (1)中小企業者等が、2021年3月31日までに中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づき
- (2)一定の設備を新規取得等して指定事業の用に供した場合
中小企業経営強化税制を受けることができます。
では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
(1)中小企業等とは
中小企業等とは以下の企業を言います。
出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
ただし、以下の法人は資本金もしくは出資金が1億円以下でもこの制度の利用はできません。
- 1つの大規模法人から2分の1以上の出資を受ける法人
- 2つ以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
- 前3事業年度の所得金額の平均額等が15億円を超える法人
(2)一定の設備とは
一定の設備とは生産性向上設備(A類型)と収益力強化設備(B類型)の2種類に分けられます。
出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
①生産性向上設備(A類型)
生産性向上設備は以下の設備を言います。
- 一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はありません)
- 経営力の向上に資するものの指標(生産効率、エネルギー効率、精度など)が 旧モデルと比較して年平均1%以上向上している設備
②収益力強化設備(B類型)
収益力強化設備は、年平均の投資利益率が5%以上となることが見込まれることにつき、経済産業大臣(経済産業局)の確認を受けた投資計画に、記載された投資の目的を達成するために必要不可欠な設備となります。
(3)指定期間とは
中小企業経営強化税制を受けるには指定期間が設けられています。「平成29年4月1日から令和3年3月31日」であることを認識しておきましょう。
(4)指定事業とは
中小企業経営強化税制を受けるには、事業の指定もあります。詳しくは下記資料を参照にしてみてください。
出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
4、実際に中小企業経営強化税制を受ける時の流れ
最後に実際に中小企業経営強化税制を受ける時の流れを見てみましょう。
出典:中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」
生産性向上設備(A類型)と収益力強化設備(B類型)で違いはありますが、大きく下記のような流れになります。
- (1)対象設備の選定
- (2)工業会等の証明書(A類型)・経済産業局の確認書(B類型)の取得
- (3)経営力向上計画認定申請書を提出・認定
- (4)対象設備の取得
では、順番に見ていきましょう。
(1)対象設備の選定
まず、新たに取得しようとしている設備が中小企業経営強化税制の対象設備であるかどうかを確認しましょう。
(2)工業会等の証明書(A類型)・経済産業局の確認書(B類型)の取得
①A類型
当該設備を生産した機器メーカー等に証明書の発行を依頼して証明書を発行してもらう。
②B類型
投資計画案を策定し、申請書を作成し、公認会計士又は税理士の事前確認を受け、事前確認書を発行してもらいます。
それから経済産業局に投資計画と事前確認書を提出して、確認書を発行してもらいます。
(3)経営力向上計画認定申請書を提出・認定
担当省庁に下記申請書類を提出して、計画申請をします。
- 経営力向上計画申請書およびその写し
- 工業会等の証明書または経済産業局の確認書の写し
(4)対象設備の取得
最後に認定を受けた設備等を取得し、事業に使用することで、税務申告において中小企業等経営強化税制の優遇措置を受けることができます。
実際に申請する時に必要な書類はこちらからダウンロードしてお使いください。
まとめ
今回は中小企業経営強化税制について解説しましたがいかがでしたでしょうか。
中小企業経営強化税制は経営力向上を目指す中小企業等にとっては是非利用したい制度になります。申請書や投資計画案などの作成等に不安のある方は担当の税理士の方と相談しながら進めてみてはいかがでしょうか。